『デュクシがバシルーラを唱えて落ちていった後』
全身を風に煽られながら、ゆっくりと落ちていくデュクシ
その顔にはどこか満足感のようなものがあった
「やべ〜…これ死ぬよね?うん死ぬな」
自分の運の無さは自分が一番分かっている
「でもまぁいいか…最後の最後に少しは役に立てた」
こんな情けないじぶんをあの人は奮い立たせ、チャンスを与えてくれた
あのままポートセルミの酒場で燻っているよりは、こうしてあの人の役に立って
死んでいける方が遥かにマシだ、カッコつけかも知れないがそう思った
その時だった…
「うを!何これ!?」
急に自分の体が、ドラゴンのそれへと姿を変えた、それと同時に
『ダメでしょ、勝手にしんじゃ?』
声が聞こえてきた
「…その声は?」
『まぁ私は勇気のある人間は嫌いじゃないわ、鍛えなおしてあげるから』
『後でせいぜい役に立ってよね』
声が止むと、一気に海面が迫ってきた
視界一面海の青を捉えながら
「…そうか…まだ死ななくていいんだ」
そう呟いて、デュクシの巨体は大きな水柱を上げた
補足:
紫が死んだ後に妖精の城でデュクシがいなかったのは、実はアイリスに助けられ
修行を積んでいたからという設定です
ちなみにニートが過去に戻り、エルヘブンで目覚めたときに
隣でデュクシが寝ていましたが、あれはニートと同様に過去に戻ってきたから
『マーサと別れた後のゲマ戦』
魔界の主婦ことマーサさんはとても気さくで良い方でした
これなら紫があんな素敵なお子さんに育つのも納得ですね
そんなこんなでマーサさんと別れた後、洞窟を進んでいくと
「ホーッホッホッホ」
……この胸焼けがするようなイヤらしい笑い声は?
「久しぶりですね〜、この魔王の本拠地であるこのエビルマウンテンにどんな命知らずが」
「迷い込んできたのかと思ったらまさか……」
「あの時の死に損ないさんだったとは!」
俺の頭の中で、強制的にあの記憶が思い出される
目の前で焼かれていく人と家々、戦士のおっさんの切り裂かれた死体、そして…
『皆殺しにしてあげましょう!』
かまのような口調と蛇のような邪悪な笑みを浮べる魔物の姿
急に激しい動悸に襲われ、倒れこみそうになったところをスランに支えられる
「どうしたのバキ!?」
ヤバイ……ブラクラどころの騒ぎじゃない……今にも胃の内容物を戻しかねないくらい
俺の体は目の前の魔物に対して拒否反応を起こす
「ゲマ…てっきりあんたは人間界にいるものとばかり思っていたわ」
そう言ったのはアイリスだ、どうやら顔馴染みらしい
「ええ、勇者の捜索を任されていたのですが最近になって魔界に侵入者が現れたと聞いて」
「戻ってきていたのですよ」
そう言ってゲマと呼ばれた魔物は、再び気持ち悪い高笑いを浮べた
「さて、おしゃべりはこのくらいにして…とっととあなた方を始末することにしますか」
言うと同時に特大のメラゾーマを放つ!
メラゾーマが俺と、俺を支えているスランに直撃すると思ったその時
「てゆ〜か、マジかまとかキモイんですけど〜」
別のメラゾーマが横から飛んできて相殺された
見るとよしおが機嫌の悪そうな顔でゲマを睨みつけていた
「なんか知んないけどあんたムカつく〜」
きっとそれは同族嫌……ゲフンゲフン
兎にも角にも俺は何とか気を持ち直して剣を握る
こいつを倒してとっとと過去のトラウマとか村人の敵やら何やらかんやらを
まとめて精算してやる!
俺がゲマを切りつけるのと同時に戦闘が開始される
こいつ図体の割りに動きがすばやく攻撃が中々当たらない
おまけにマホカンタとか使うから魔法はほとんど当たらない
マジウザイよマホカンタ
そう思っていたらアイリスが
「下がってなさい」
手にした杖の先から何か波動のようなものを出した
「何と?」
ゲマのマホカンタが消えた
それにしても凍てつく波動まで持っているとは、女王の名は伊達じゃない
「雑魚に構っている暇は無いの、とっととぶっ倒しなさい!」
言われなくても!
と言いたい所だが、なぜか動きに精彩を欠く俺
理由は自分でも分かっている、精神的に俺はゲマのことを恐れているのだ
サンタローズ以来、俺は色々なことを経験した
(カジノで全財産すったり、全裸で寝たり、霊光波動の修行を受けたり)
しかし、それでも心の奥底にある奴に対する恐怖を拭い去ることが出来ない
そんな俺の横ではスランとよしおが奮闘している
…情けない…自分の心の弱さが恨めしい
数の利もあってか押されぎみのゲマはこんなことを話し出した
「…まさかこの私が人間風情に押されるとは…私をここまで苦戦させたのはあの男」
『パパスという片乳首が丸出しの男以来ですよ!』
俺は、耳を疑った
てめぇ、今なんていった!?
「おや?パパスのことを知っているのですか?死に損ないさん」
俺は沈黙でそれに答える
「パパスは本当に楽しませてくれました、いや、彼は本当に強かったのですよ」
「私の大事な部下を瞬殺してくれましてね〜」
まさか…お前が…
「ところが少しおいたが過ぎると思ったので、彼の息子をちょっと人質にとってやったら」
「急に大人しくなりましてね…いや〜、あの耐えているときの悔しそうな
顔と言った……あれ?」
怒りで頭がどうにかなりそうだった
気づいたら俺はゲマに向かって走り出し、剣を一閃
自分の中のどこにそんな力があったのか?疑うような勢いで剣を振りぬくと
ゲマが真っ二つになった
「私が…私の体が…ふた、ふた…二つにぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
ゲマが痙攣しながら倒れ…そして霧の様に消えた
俺はそれを見ながら歯を食いしばる
これで村のみんなの敵は取れた
しかし、パパさんの敵を取ったなどというつもりは無かった
あの人は負けてなんかいない、息子を…紫を人質に取られ自分の無力さと
罪悪感に苛まれ、そして…
「む す こ を た の む」
あの言葉を残して死んだ
「うわぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁ!!」
俺は叫んだ、自分でもなぜ叫んでいるのか分からなかった
ただ、一つだけ分かることがあるとすれば、
俺の心の中には先程までの恐怖心は無く、
燻っていた俺の心の薪に、くべられた火が「勇気」という名の炎に変わって
俺の心を、体を奮い立たせてくれているということだけだった
とっとと行こうぜ!
俺は後ろで何も言わずに待っていてくれたみんなに声をかける
みんなも空気を呼んでくれたのか
「ええ」とか
「魔王潰しにいこ〜」
とか言ってくれた
俺はいい仲間を持った…本当に…
「行こうバキ!魔王はもう目の前だよ!」
スランはいつもの様に笑顔で言った
『よしおがヘルバトラー二体を引き受けた後』
「はぁ〜、正直こういうのキャラじゃないんだけど…たまにはいいっしょ?」
言うと同時によしおは二発のメラゾーマを放つ
が、相手は人読んで「地獄の執事さん」こと
最上級悪魔ヘルバトラーだ、メラゾーマでも足止めくらいにしかならない
「メッサーラごときが我々に歯向かうとは…それも、人間などという下劣な種族の
下僕になりさがった輩が…片腹痛いわ!」
イオナズン×2がよしおを襲う!
「つ〜か〜、何も知らないくせに下僕とかマジウザイ!」
メラゾーマを地面に放ち起こった爆風でイオナズンの威力を弱める、が
それでもかなりのダメージを受けるよしお
「…そりゃあ私はモンスターだし、見た目性別不明だけど…少なくとも
モンスターおじいちゃんは私のこと「仲間」だって言ってくれた」
よしおは立ち上がりながら続ける
「バキたちの仲間になったとき、最初はめんどくせ〜とか思ったけど、
バキは私がモンスターだからって差別したことは無いし、スランちゃんは可愛いし
デュクシは私のメラゾーマ食らっても回復したら笑顔を見せてくれる……」
ヘルバトラー二体から、いいように攻撃を受けるよしお
しかし、なおも話し続ける
「あいつらはこんな私のこと「仲間」だって言ってくれる。
だから私はあいつらのためならでもする……それが例え命を掛けることでも!!」
ヘルバトラーたちが止めを刺さんと二体で同時に攻撃を仕掛けてくる!
よしおはゆっくりと手を広げると……ヘルバトラーの攻撃を自ら受けた……
血が流れる……紫色の魔族の血が……
ヘルバトラーの二本の腕がよしおの体を貫通している
よしおは最後の力を振り絞ると、貫通したヘルバトラー二体の腕を離さないように掴む
「この距離なら……いくらあんた達の耐性が高くても……逃げられないでしょ?」
ザ ラ キ !
至近距離での死の呪文を前に、なすすべも無くヘルバトラーたちが絶命する
「ざまぁ…見ろ…」
よしおは、倒れたヘルバトラーを見ながら
ドサッ
自らも力が抜けたように倒れた
体からは血があふれ出しよしおの頬を濡らす
「……次は…私も赤い血の…人間に……そし……らデュクシに…こくは……く……」
そこまで言うとよしおはゆっくりと目を閉じた
目には光るものが一粒
悪魔の肉体と人の心を持ち合わせた魔物は、遠くで聞こえる激しい
戦いの音を耳にしながら、静かに眠りに落ちていった……
『ミルドラースとの戦闘(特盛り)』
魔王がその本性を現した
全身がバキバキと音を立て姿かたちを変えて行き、
巨大な赤い竜にへと姿を変える
圧倒的な威圧感に近づくことすら出来ない
「いい、あんたたち?私はあなた達のフォローしか出来ないわ」
「その代わり回りの雑魚は任されてあげるから」
そう言うとアイリスはベギラゴンを唱え周りにいた数対のキラーマシンを一瞬の内に破壊した
確かにキラーマシンの相手をしなくていいのは楽だ
しかし、今まで攻撃から回復、補助にいたるまですべての
役割を担っていたアイリスが抜けるというのは正直きつい
「大丈夫よ。意外と何とかなるわ」
意味深な笑みを浮かべながらアイリスはデュクシを見る
デュクシは意味が分からずぽかんとした顔をアイリスに向ける
「頑張りなさい私の勇者達・・・私に出来るのはここまでよ」
再びアイリスのベギラゴンがキラーマシンを粉砕した
魔王との戦闘が始まる
まずは様子見ということで遠距離から
デュクシとスランがメラゾーマとベギラゴンを放つ
しかし、ほとんど聞いていない
「炎というのはこうやって出すのだ!」
ミルドラースが口からしゃくねつの炎を放つ
余りの暑さに後退を余儀なくされる
「・・・今のはメラだ」
ウソつけ口から出てたじゃねえか!言いたいだけだろそれ!
どうやら奴に炎系のじゅもんは余り効かないらしい
こうなったら最早ガチンコだ
作戦を変え俺とスランにバイキルト&スクルト
デュクシは引き続き遠距離からヒャド系の呪文を放つ
ていうかこいつマジチートだよ
二回攻撃とかげんじのこてでも装備してんのかよ!?
とかムカつきながら攻撃したら会心の一撃でた
オッケィ!この調子で…
ミルドラースはめいそうをした
ミルドラースのキズが見る見るうちにふさがっていく
……めいそう死ねよ
「どうした人間?アイリスが言っていた勇気とやらはいつになったら見せてくれるんだ?」
うるせーな、いまちょっとコンビニ行ってんだよ!
すぐに帰ってくるさ!!
「おしゃべりするなんて随分余裕ねっ!」
横に回りこんだスランが思い切り斬りつける
そこをデュクシのマヒャドが襲う
「ぐぉぉおおおお!」
ミルドラースが苦痛に表情をゆがめる
いいぞその調子だ!
俺も便乗してバギマとなえた……耐性強すぎてはじかれた……
一進一退の攻防が続く
ミルドラースはこちらがHPを削っても数ターン毎にめいそうで
体力を回復する
それでもあきらめずに俺達は攻撃を仕掛ける
俺はとにかく近距離で炎防ぎながら切りつける
ジャハンナで買ったミラーアーマーが時々魔法跳ね返ししてくれる、すげぇ!
ただ、必殺技のハズの魔法剣は役に立たない
どうやらフバーハみたいな炎に耐性のある膜が皮膚の表面にあるみたいだ…ほんと魔王うぜぇ
スランは魔法に攻撃に大奮闘
流石はうちのエースだ
バイキルトの恩恵もあり攻撃するたびに奴が顔をゆがめる
しかし、体力は女の子のそれだ
今はいいが長期戦になったら……
さて、デュクシなのだがはっきりいってここまでの奴はMVPものだ
いつの間にか覚えたのか賢者ばりの呪文を駆使して俺たちの
フォローに攻撃に、防御にと大活躍
心なしか顔も賢そうに見える
しかも、二回攻撃受けてHP黄色になったときには
自分にべホマかけてた
ちょwwwおまwwwまさか賢者にwwww
「いや、違うね…!おれは・・・賢者じゃねえ…!」
「大魔道士!!……そう、おれを呼ぶなら大魔道士とでも呼んでくれ!!」
目が覚めるとデュクシは見たことも無い部屋にいた
起き上がると体が激しく痛む
「おう、起きたのか」
声のしたほうに向くと一人のおっさんが立っていた
「ふむ…大した怪我はしてねえな…」
おっさんはべホマを唱えた
デュクシの体のキズが全快する
「アイリスちゃんがお前に稽古付けたら乳もませてくれるって言うから来た」
とおっさんは言った
デュクシは、
ああこの人は可愛そうな人なんだなって
思った
それからしばらくデュクシはおっさんにじゅもんの稽古をつけてもらった
おっさんは正直すごい
大抵のじゅもんは唱えられるし、時々岩に縛り付けられて湖に沈められて
「ルーラとなえて脱出しろよwww」
とかムチャ振りもされたが、おかげでアホみたいに魔力が上がった
おっさんはよく酒で酔うと
「俺は賢者なんかじゃねえんだよ、そんなこざっぱりした名前は気にいらねえ…俺を呼ぶなら…」
「大魔道士って、そう呼べ!!」
そう言っていた
最後の修行の日おっさんは俺にこんなことを言い出した
「才能はねえけど頑張った方じゃねえの?」
何となくデュクシは照れる
「まぁ魔王相手にどこまでやれるかしらねえけど頑張れや」
そう言うとおっさんはデュクシの頭を杖で殴った
デュクシはそのまま意識を失い、気づいたときにはエルヘブン
の宿屋のバキの隣で寝ていた
左手からマヒャド、右手からスランへのべホマを唱えながら
デュクシは
「師匠、俺頑張ってるよ」
そう呟いた
ミルドラースが忌々しそうに俺たち三人を見る
「なぜそんなに頑張る?」
「お前たちは勇者の血筋でも何でもない・・・ただの人なのだろう?」
ミルドラースは理解に苦しむといった表情をしている
「なぜ理由も無く自分よりも遥かに強大な相手に向かっていける?」
そんなの知るか!
確かに俺は勇者でもない、ただの元ニートだ
別に誰かを見返してやりたいわけでもないし
世界救って誰かに褒めてもらいたいわけでもない
ただ、俺がそうしたいから……お前のことをぶっ倒したいから今ここにいるんだ!!
「分からん……人間とはみなそういった生き物なのか?」
はん、お前なんかに理解できなくて当然だ
なんせ俺は焚き火炊き続けて20年弱の大馬鹿野郎だからな
俺の思考を理解できる馬鹿がいたら顔が見てみたいぜ!
そう言ったらスランが
「じゃあ、私はバキ以上の大馬鹿野郎ってこと?」
と言って笑った
俺が苦笑するとデュクシが
「ラブコメ乙」
と言って、バギクロスを唱えた
体を巨大な竜巻に切り刻まれうなり声をあげる魔王
勝てる…そう思った
事実俺たちには勢いがあり、
完全にミルドラースのそれを凌駕していた
しかし、奴も大魔王を名乗る男
そう簡単に事が進むはずも無かったのだ…
とつじょミルドラースの表情が変わった
そして、今までが全てお遊びだったと言わんばかりの
激しい灼熱の炎を吐き出す
デュクシがとっさにフバーハを唱えるが炎はフバーハを
吹き飛ばし俺たちに襲い掛かる
「キャアーーーー!!」
スランが倒れる
俺とデュクシもかなり体力を削られた
すぐにデュクシがべホマラーで体力を回復するが
ミルドラースは攻撃の手を緩めない
「遊びの時間は終わりだ……脆弱な人間風情が…
身の程を知れ!!」
ミルドラースの攻撃が激しくなる
炎を吐いたと思えば、メラゾーマ
それを何とかやり過ごしても、休む間も無く爪の一撃が
襲ってくる
俺はミラーアーマーやらみかがみのたてなどのおかげで
何とか耐えていたが
体力に難のあるスランは回復魔法の効きも悪くなってきた
デュクシは後衛のため、スランよりは体力に余裕があるが
MPの消費が激しい
それでも俺達は諦めなかった
俺は最前線で二人の盾となりながらミルドラースに斬りつけ
スランは、動きが鈍くなった変わりにじゅもんで俺を助ける
デュクシは、最早残りMPなど気にしていられないといった
感じで攻撃じゅもんを連発し続ける
突如、攻撃が止んだ
「なぜ絶望せんのだ!?」
ミルドラースが言う
「我は大魔王ミルドラースぞ!?」
「お前等ごとき人間が適うわけ無い相手になぜそうまで立ち向かう!?」
俺は答えずにただ、ミルドラースを睨み返した
「その目だ・・・まだ勝てると思っているその目が気に入らん」
「・・・良かろう・・・ならば」
「お前から殺してやろう!!」
ミルドラースの凶悪なまでの爪の一撃が俺に襲い掛かった!
俺は何とかその一撃を受けきったものの
ギィーン!!
奇跡の剣が砕けた
あっ、と小さくもらした時には既に遅かった…
無防備な俺をミルドラースの特大のメラゾーマが焼く尽くそうとしていた
・ ・・この光景を見たのは・・・二度目だろうか?
『ねえバキ?』
『あっちに帰ったらさ、二人で色んなところに行こうよ』
目の前でスランが俺の変わりにメラゾーマを受けて
ゆっくりと倒れた・・・
一瞬・・・時間が止まった気がした
後ろではデュクシが何かを叫んでいるが頭が聞くことを拒否している
「だからね、約束!」
気づくとデュクシが、俺の目の前でミルドラースの炎をマヒャドで
押し返していた
「しっかりしてください!何のためにスランさんがあなたを庇ったと思ってるんですか!?」
そうだ、スラン・・・スラン!!
「・・・ごめ・・・んね・・・わた・・・」
喋るな!今回復してやるから!
べホイミを唱えるが回復しない
俺は何度もべホイミを唱えるが一向にスランの容態がよくなる気配はない
「ごめ・・・ね・・・ば・・・き」
スラン・・・おいスラン!!
その時だった・・・スランの体が淡い光を放つと・・・俺の体を包み込んだ
気づくと俺は花畑の中に立っていた
「ばき!ばき!」
懐かしい声がした・・・人になりたてのころのスランだ
このときはまだスランボーって呼んでたな
「ばきー、デュクシwwデュクシww」
ポートセルミか・・・船旅のときは楽しそうだったな
「バキ?何してるの」
大きくなってきたな・・・でもまだ幼くて・・・お父さん見たいな気持ちだった
「バキ!妖精だよ!」
この頃にはもう・・・すっかり大人で・・・本当にキレイになって・・・
「ねぇバキ?約束だよ」
スラン・・・スラン・・・スラン・・・
返事をしてくれよスラン
いつもみたいに無邪気に笑ってくれよ
いつもみたいに・・・バキって呼んでくれよ!!
『ゴメンね』
『ゴメンね・・・バキ』
『約束破っちゃった・・・本当にゴメンね』
『あ〜バキと色んなところに行きたかったな〜』
『人間のデートとかも・・・興味あったんだよ?』
『キス・・・とか・・・うんバキとなら悪くない』
『でももう・・・できなくなっちゃったんだね・・・』
『今までありがとう』
『でも、さようならじゃないよ』
『ねえバキ?私たちは・・・』
『いつでも一緒だよ?』
時間にして恐らく一秒も無かっただろう
光が静かに止むとスランを抱いていたはずの俺の腕には
一本の青い刀身の剣が握られていた
スラン・・・さっきのはお前の最後の変異だったのか・・・スラン!
俺は剣を握り立ち上がるとマヒャドで炎を堪えていた
デュクシの横を走り抜け、
「うわぁーーーーーーーーーーーーーー!!」
ミルドラースに切りかかった
「バキさん、その剣は?」
・・・何が勇者だ!好きな人、一人守れないで
何が勇者だ!!
「ああああああああああああああああああああああああああ」
剣を力の限り振り下ろす
ミルドラースの腕が大きな音を立てて地面に落ちた
「デュクシ、残りのMPどのくらいだ!?」
「えっ?12くらいですけど」
「あれは持ってるな?」
「あれ…あぁ、はい持ってます!」
「じゃあ俺の合図で残りのMP全部ぶっ放せ!!」
「・・・はい!」
「うおおおおおおおおおおおお!!」
バキの剣がミルドラースの二本目の腕を切り落とす
ミルドラースにとっては腕を切り落とされるくらいたいした深手ではないしかし
(何だこの・・・)
ミルドラースには今この瞬間自らの内に湧き上がる感情を
理解できないでいた
(わしが・・・まさか・・・)
しかし、三本目の腕を根元から切り落とされた瞬間・・・
それは理解せざるを得ない感情へと変わった
(ワシが人間に恐怖しておるだと!?)
人が怒ったとき、良く分からない力が沸いてくるとか言うが
今まさに俺はそんな状態だった
ゲマがパパさんの敵だと知ったとき以上に、
俺は自分の感情を剣に乗せ斬りつける
手に握られた青い剣は俺の気持ちに答えるかのように
刀身を輝かせ、ミルドラースに襲い掛かった
無心だった・・・無心で斬り付けた・・・いや無心というよりは
一つのことしか考えられなかった
(・・・スラン)
鋭い剣閃とともに四本目の腕が切り落とされた
ミルドラースは口からしゃくねつをはきだそうとしている
(・・・スラン)
俺はミルドラースの顔に向かって飛び掛る
吐き出されたしゃくねつが襲い掛かってくるのが見える
「スラーーーーーーーーーーーーーーーーン!!」
ミルドラースは勝利を確信した
流石にこの距離でしゃくねつの炎を浴びれば骨も残らない
ミルドラースは「安心」した
しかし次の瞬間
炎を体に纏うようにしてバキがしゃくねつのなかから姿を現した
その後ろではデュクシがバキの背とミルドラースの口に向けて
最後のマヒャドを放っている
「連発だぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
デュクシは指にはめた祈りの指輪でMPを回復すると両手から
ありってけの魔力を込めたマヒャドを放ち
ミルドラースの動きを一瞬止めた
「まさか、まさかこの私が……」
バキは背に受けたマヒャドと、回転の勢いそのまま剣に灼熱の炎を纏わせると
「フレイム……
剣を構え自分に残された力の全てを青い剣に宿らせる
その目からは、大粒の涙が溢れ出していた
「オラシオーーーーーーーーーーーーーーーン!!」
叫びながら剣をミルドラースの額に突き立てた!!
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーー!!」
剣の先から放たれた炎はミルドラースの頭蓋を燃やし
体中にその勢いを広げると体内を焼き尽くした!!
時間が止まったように感じられた
アイリスは、自分の目の前で動きを止めたキラーマシンを見ながら
「……やったわね」
そう呟いた
ミルドラースは地響きを立てて倒れると、そのまま動かなかった
「……ちくしょう」
しかし、バキはそんなことはどうでも言いといわんばかりに
その場に泣き崩れた
デュクシは掛ける言葉がみつからずただ立ち尽くしている……
こうして、誰も名を知らぬ勇者の
誰も知ることの無い戦いは静かにその幕を下ろした……
俺がいつものようにサンタローズで
春夏秋冬、季節構わず焚き火を炊いていたある日、
一枚の手紙が俺の元に届いた
差出人の名は「アイリス」
懐かしい…といってもまだ一年くらいしか経っていないのだが
とにかく久しぶりに聞く名前だった
「そうか……もう一年経つのか……」
俺はこみ上げる懐かしさと、僅かな悲しさとを胸に手紙を開いた……
「……こういう時、何て言っていいのか分からないけど」
青い剣を抱きしめながら泣きじゃくる俺を見てアイリスは言った
「とにかくジャハンナまで戻りましょう」
アイリスはデュクシを呼ぶと、二人で俺を引きずり
ミルドラースの元を後にした
途中、血を流して横たわっているよしおを見つけた
アイリスが回復すると何とか一命は取り留めたが
血を流しすぎたため、元の様に生活できるかは難しいとの
ことだった
気のせいかデュクシが悔しそうな顔をしていた
エビルマウンテンを去った後、どこからとも無く
「今回は私の負けだ…しかし、人間よ、我が肉体は滅びても魂は不滅なり!いずれ再び合い見えるときが来ようぞ!」
ミルドラースのそんな捨て台詞が聞こえてきた
アイリスの話によると、俺たちが倒したミルドラースは
不完全なもので、一時的に封じ込めたに過ぎないらしい
「まぁ、また復活したときには本物の勇者達が何とか
してくれるでしょ」
と言ってアイリスとデュクシが笑った
しかし、俺は笑えない……というよりどうでも良かった
今の俺には、この二本の腕に握られた剣…スランが全てだ
魔王がどうなろうと、勇者がどうだろうと、大統領がオバマになろうと関係ない
「と、とりあえず一時的にでも僕らは世界を救ったわけですし」
「今日くらいはパァッとやりましょうよ」
デュクシの提案で酒場に行くことになったが、俺は
「一人にしてくれ」
そう言ってスランと共に宿屋の一室にこもることにした
今は何も考える気がしない
三人でよしおをジャハンナのモンスターじいさんに預けると
俺はアイリスとデュクシが酒場へ向かうのを見送った
「何とかならないんですか?」
「…何とかって?」
「だから、その…女王様のお力でスランさんのことを……」
言っていてスランの死を実感してしまったのか、顔を俯けるデュクシ
「どうにもならないわ」
アイリスはあっさりと言い放つ
「誰か第三者の呪いとかであの姿になったのならまだしも、
あの子は自分で彼の剣になることを選んだのよ、私には何も出来ないわ」
グラスの中の氷が、溶けて「カラン」と渇いた音を響かせる
「このまま消えていくよりは剣になってでも彼と一緒にいたかったんでしょうね……きっと」
アイリスがグラスの中の酒を一気に飲み干す
「でも……世界救えてもこんなの……バキさんが可愛そうすぎますよ!」
ダンっ!とデュクシが机に拳を叩きつける
周りから「うるせえ」という視線を感じてデュクシは小さくなった
「私たちがいくらここで話してても仕方が無いわ、後は…」
「彼が自分で考えて決めることよ」
デュクシはそれを聞くと
「マスター、ビールピッチャーで!!」
飲めない酒を浴びるように飲み…そして吐いた…
俺は宿屋の床に、ひとり座り込んでいた
「スラン…」
話しかけても返事は無い
「スラン…」
もう一度話しかける
青い剣はただ、淡い光を帯びて手の中にその身を預けている
戦いの後で疲れていたからか俺はそのまま一人眠りに付いた
腕には布で巻かれたスランを抱きしめながら……
その夜、俺は夢を見た
スランと二人で世界中を旅する夢だ
スランは最初は10歳くらいの女の子だった
それが旅を続けていくうちに段々と成長して行き
立派な女性になる
大人になったスランは俺に言う
「楽しいねバキ」
俺はそれを見て笑いながら
「あぁ」
とだけ返す
気づけば俺達は花畑の中に二人でたたずんでいた
「バキ、私たち色んな所に言ったね」
あぁ
「楽しかったよ、バキと一緒で」
あぁ
「だからね、笑ってお別れしよう」
……
「ほら、笑って、いつもみたいに、『仕方ねえな』とか言いながらさ」
……あぁ
俺は無理やり顔に笑顔を作る
「そう、私バキの笑っている顔が一番すきだよ」
……あぁ
「じゃあね、私はいつでもバキを見てるよ…この世界のどこかで」
……あぁ
スランが俺の目の前から音もなく消える
それと同時に目が覚めた
俺の手に握られていたはずのスランはいなくなっていた……
翌日、起きてきたアイリスとデュクシにそのことを伝えると
「そうですか……」
それだけ言って黙ってしまった
俺は
「ほらほら、元気に行こうぜ!俺達は魔王を(一時的にだけど)倒したぱーりーなんだからよ!」
「バキさん?」
「それによ……きっとスランも俺がここでグジグジしてるのなんか見たくないから消えたんだ……きっと」
アイリスもデュクシも黙って俺の話を聞いている
「だから……泣くのは今日で最後だ……」
俺は宿屋で人目をはばからず泣いた
これは…前に進むための涙だ
明日から笑って過ごせるための涙だ
俺のことをどこかで見ててくれているスランが、俺の笑顔を見て
笑ってくれるための……
「なああんた知ってるか?」
突然話しかけられて俺は戸惑った
「何がだい?」
やっとのことでそう返す
「大魔王とやらこっちの世界を支配しようとしてたらしいんだけどよ」
「何でもたった三人で大魔王を倒した勇者のパーティーがいるらしいぜ?」
「・・・それは初耳だな」
「しかも噂ではその勇者は小さな村でニートやってたって言うんだから」
「俺ら何の取り柄も無い一般人としちゃあ勇気がでるってもんじゃねえか?なぁ?」
「勇気・・・か」
俺は立ち上がると勘定をすませた
「どっか行くのかい?」
「あぁ・・・」
「ちょっと妖精に会いに」
俺はサンタローズで手紙を受け取った後、すぐに旅の準備をした
じいさんが「どこか行くのか」と聞いてきた
ちなみにじいさんは今でも健在で、最近では少しばかり
活気を取り戻したサンタローズの村おこしを計ろうと
名物の作成に躍起になっている
しばらくはボケる心配も無いだろう
俺はじいさん少し出掛けてくるといって村を後にした
久しぶりの一人旅だ
とりあえずやくそういっぱい買い込んだ
あれから、アイリスは妖精の城に戻った
あいつは女王なのだから当たり前だけど
別れ際に俺のことを抱きしめて
「ありがとう私の勇者……ミルドラースは滅んだわけじゃないけど」「あなたは、確かに世界を救ったのよ……」
「これは誇っていいことだわ」
そう言って俺の頬にキスをしてくれた
素人童貞の俺には刺激が強すぎて卒倒しかけた
デュクシはポートセルミに戻るといっていた
賢者になったんだし、デュクシなら
別のパーティーに入っても旅を続けられるだろう
しかし、デュクシは
「僕の冒険は…もう終わりました」
そう言って笑った
「僕はスランさんやよしお、アイリスさん、それに…」
「バキさんという勇者が率いるパーティーの専属賢者ですから」
とか嬉しいことを言ってくれやがった
イケメンがカッコいいことを言うと余計にカッコいいのがムカついて思わず殴った
自分の醜い嫉妬心もここまで来ると笑える
しばらくは平和が続きそうだし
頑張ってポートセルミで正社員になって家庭を持ちたいと
小さな夢を語るデュクシの顔は輝いていた
よしおは療養のためジャハンナのモンスターじいさんの所に残った
何でも元々魔界の住人である魔族にはここの環境は
療養に持って来いだそうだ
「何か〜色々あったけど楽しかったし~」
心なしか最初の頃に比べると大人しくなった気がする
ベッドの上にいるせいだろうか?
「何その顔?もしかして心配しちゃってる感じ〜?ウケるんですけどwww」
前言撤回、やっぱこいつは受け付けない
しかし、何だかんだでこいつには本当に世話になった
ありがとうよしお
最後までなんで女のくせに「よしお」なのか分からなかったけど…
サンタローズを出た後
東の船着場から船に乗りポートセルミへと渡る
ポートセルミにはデュクシがいるので正社員目指して
年下の社員に怒られる様でも見てやろうと思ったら
既に店長になってやがったww
「人間本気になれば出来るもんですね」
と言った
俺はデュクシの店でただ飯食わせてもらった
その晩はデュクシの家に泊まることになった
生意気にも一軒屋持ってやがる
「中古の物件を安く買ったんですよ」
と恥ずかしそうに言っていたが最早勝ち組にしか見えない
中に入ると……俺は息が止まるかと思った
リビングに赤毛で巻き髪の美人さんがいて夕飯の準備してた
「ちょっと〜友達連れてくるなら入れろって…」
「あれ、何だバキじゃ〜ん」
聞き覚えのあるクセのある喋り方…
ウソだといってよバーニィ……
「スイマセン、驚かせたかったもので……
紹介します、ワイフの芳緒(よしお)です」
俺はデュクシの家を飛び出した
そして泣いた……そして
「勝ち組死ね」
と心から思った
しばらくして頭が冷えた俺はデュクシの家のドアを恐る恐るノックする
デュクシと芳緒は何事も無かったかのように迎え入れてくれた
話を聞くと、よしおはジャハンナで療養中に、自分の体の
変化に気づいたそうだ
数ヶ月もすると赤かった肌はアイボリーに変わり、髪は赤味を帯びた
巻き毛に変わり、半年が過ぎる頃にはほとんど人間になっていたとのこと
「私もマジ驚いたんだけど、まぁ人間嫌いじゃないっていうかむしろ好き?みたいな、だからそのまま人間として暮らしちゃえって思ったわけ」
その後、デュクシが見舞いがてらルーラでジャハンナへ
↓
人間になった美人のよしおと遭遇
↓
一目ぼれ
↓
てか、お互いに気になってた?
↓
プロポーズ
↓
結婚
↓
幸せ家族計画
↓
俺の嫉妬←今ここ
というわけだ
おまけによしおのお腹には赤ちゃんまでいるとかで
もうめでたいやら何やら……
とりあえず俺は夕食ご馳走になった後
「ザラキザラキザラキザラキザラキザラキザラキザラキザラ…」
と連呼しながら家を飛び出した
幸せな奴らはみんな敵だ!!
後でお詫びの手紙でも書こうとか考えながら俺は旅を続ける
途中で寄ったサラボナで宿に泊まった
そういえばサラボナは人間になったスランと初めて寄った町だ
懐かしみながら眠りに付くと、あの夢を見た
スランと二人で花畑に立つ夢
俺たち二人はいつもの様に笑顔で話し、泣き、そして別れる……
起きるといつもの様に涙が頬を伝っていた
……スラン……お前に会えないことが寂しくて泣く俺は弱いのかな?
その後も、スランと旅した足跡を辿るように旅を続ける俺
途中で寄る、一つ一つの場所が懐かしく感じられる
そして…
「久しぶりだな・・・」
俺はつぶやくとボートに乗り込み対岸に渡った
対岸にはとても美しい、妖精が住む城があった
俺は城内に入ると行き交う人に軽く会釈しながら
最上階の女王の間へと足を進めた
扉が開かれると、見覚えのある顔が俺を待ち構えていた
「遠いところをご苦労様」
別にかまわねえよ・・・そんで、今回呼び出したのは?
「ええ・・・それが・・・」
俺は女王の間を飛び出した
階段を駆け下り廊下を走りぬけ一目散に城の外へと向かう
「実はね……スランが見つかったの……」
…えっ?
「でもね、見つけたときにはボロボロの状態で……」
胸が痛い、動機が止まらない
それでも俺は走るのを止めることが出来ない
「せっかく前に進もうとしていたのにゴメンね」
「あなたには酷かも知れないけどスランは……」
数分後俺は一つの墓標の前に立っていた
墓標には十字架と、眠っている人物の名前らしき
文字が彫られている
・・・しかし、肝心な物が・・・本来突き刺さっているはずの剣が見当たらない
「城の外の森にあの子がいるわ……会いに行ってあげて」
「剣の突き刺さったお墓が目印よ…」
そう言ったきり、アイリスは視線を落とした
辺りを見渡す・・・剣はどこにも見当たらない・・・
俺はその場に崩れた
ボロボロの状態で見つかった青い剣……スランは砕けてしまったのだろうか……?
その時だった
『どうされたのですか?』
俺は振り向かずに声の主に答える
『大事な・・・とても大事な剣が無くなってしまったんです』
『まぁ・・・それはお辛いでしょうね』
『あぁ・・・どこに行ってしまったんだ・・・俺の剣・・・』
『その剣はそんなに大切なものだったのですか?』
『あぁ、俺の命に代えても良いくらいだ』
『その剣はそんなに美しいのですか?』
『当然だ!俺にとってはこの世で最も美しい剣だ』
『それは・・・』
『こんな剣でございましたか?』
その問いかけに、俺はゆっくりと振り向いた
『あぁ・・・あぁ・・・そうだ』
涙が自然と溢れ出す、同時に俺は声の主の下へと駆け出した
頭の中にはあの性悪妖精女のしたり顔が浮かぶ
『君の髪のようにきれいなメタルブルーの刀身』
『君の肌の様に整った剣先』
『君の・・・』
「いやもういい・・・お前のように美しい剣だよ・・・」
スラン!!
俺はスランを抱きしえるとキスを交わし、
見つめあい・・・時々、何かを思い出したように笑った
「アイリス様も人が悪いですね」
「何が?私はスランが剣の状態で見つかったとも、死んだとも」
「ましてやあの墓がスランの墓だ何て一言も言ってないわよ?」
アイリスは心底楽しそうに…そして心底嬉しそうに笑った
見つめあう俺とスラン
話したいことがたくさんあったはずなのに
いざ口にしようとすると言葉にならない
「私に会えなくて寂しかった?」
「あぁ」
「会えて嬉しい?」
「あぁ」
「もう、バキあぁしか言わないじゃ…うむっ」
今頃アイリスはどっかで覗いているんだろうな……
どうせなら見せ付けてやれと俺は再びキスをした
スランの言葉をさえぎるように
唇が離れるとスランは目に涙を浮べて笑った
最早言葉はいらなかった
俺がいてスランが横にいるそれだけでいい
じいさんは俺がこんな美少女を連れて帰ったらなんと言うだろう?
「今ならまだ間に合うから返して来い」
とか犯罪者扱いされるかもしんねえww
モンスターじいさんには殴られるだろうな
実質スランの親みたいなもんだし……
そうだ、デュクシ達にも報告がてら謝りに行こう
今なら素直になれるわww
……そうだな、これから何をしようか?とりあえず約束どおり
二人で世界を旅して…どっかで結婚式でも挙げて、それが終わったらサンタローズに戻って武器屋でも開こうか……
妄想が次から次へと自重せずに溢れてくる
「何考えてるの?」
スランが話しかけてくる
ヤバイ…俺もう…幸せすぎて死ねるwwwww
まぁ何はともあれ
これから、俺たちには楽しい日々が待ち受けているはずだ
俺とスランの人生という名の旅はまだ始まったばかりなのだから…
完